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作詞・作曲・アレンジはもちろん、アートワークや映像制作に至るまで、すべてをセルフプロデュースする21世紀生まれのソロアーティスト・WurtS。
ダンスミュージックを軸にしながら、ロック、ヒップホップ、ソウルなどジャンルの垣根を軽々と飛び越えるそのスタイルは、Z世代を中心に幅広いリスナーから支持を集めている。
今回は、そんなWurtSがこの1年で積み重ねてきた活動の“集大成”ともいえるEP『デジタル・ラブ』について、収録曲を一つひとつ読み解いていく。
ありふれた想いは
君の前ではすべて音になる
『デジタルラブ』は、星街すいせいをフィーチャリングに迎えた、 EPの幕を開けるにふさわしい1曲目。
近未来を思わせる機械音のようなイントロが流れた瞬間、 一気にWurtSの世界へ引きずり込まれる。無機質なのにどこかあたたかい、その独特の質感が魅力。
特に印象的なのは、星街すいせいのクリアで鋭い芯を持つ歌声と、 WurtSのやわらかく包み込むような声のコントラスト。冷たさと優しさが同時に存在することで、 “デジタルとラブ”という相反するテーマに説得力が生まれている。
歌詞は、デジタルツールが生活の中心にある現代で、不器用で純粋な恋心が揺れ動く様子を描いている。 電話もメッセージも一瞬で届くのに、 本当に伝えたい気持ちだけはうまく送信できない…。そんな“現代の恋愛のもどかしさ”が丁寧に紡がれている。
イントロの未来感、ボーカルの相性、そして歌詞の普遍性。そのすべてが重なり合い、EPの扉を開く曲として完璧なバランスを持った一曲。
どうかしてるのに
闘い、出会い、嫌い、愛
どうかしてるよ
『どうかしてる』は、ダンダダン第2期エンディングテーマとして制作された楽曲。2025年7月11日にリリースされた本作は、WurtSらしいポップさとクセのあるリズム感が、一撃で耳を掴んでくる。
まず印象的なのは、イントロで刻まれるリズム。“ダン、ダ、ダン”というアニメのタイトルを匂わせるかのようなキックのサウンドは一度聴いたら頭から離れられず、曲の世界観を一気に立ち上がらせる。
そして特に魅力的なのは、Aメロ。繰り返されるメロディラインと、ハイハットの裏拍が生み出す浮遊感が、まさにWurtSならではの“ちょっとズレたポップス”を体現している。日常と非日常の境目が曖昧になるような、不思議な気持ちよさがある。
歌詞には、ダンダダンの世界観がふんだんに織り込まれている。オカルトも恋も、不可思議さも疾走感も、アニメ独特の温度感がそのまま音に溶けている。物語の余韻を抱えたまま聞くと、曲の深度が一段上がるタイプ。エンディング映像と合わせると、曲が正解の場所にぴったりとはまる。ぜひアニメと並行して、“どうか”してる世界観を楽しんでいただきたい。
壊しても良いならそのままブームへ
幾何学まさに飛ぶ1からのミームへ
『クラッシュ』は、なとりをフィーチャリングに迎えた、 EPの中でもひときわ ロックテイストが際立つ攻めの一曲。
冒頭から鳴り響く、かすれたようなギターのザラついたサウンドがまず強烈。 磨かれていない金属をそのまま弾いたような荒々しさが、曲名の“クラッシュ”を体現する世界観を一瞬でつくり上げる。そこに疾走感のあるビートが重なり、自然と胸が前に走り出すような力強さが生まれる。
なとりのストレートで伸びのあるボーカルと、WurtSの切れ味ある歌声の相性は想像以上。二人の声がぶつかり合うことで、曲全体に“前のめりなエネルギー”が宿っている。
歌詞には、「流行に乗る側ではなく、流行を創り上げる側でいたい」という明確な意志が刻まれている。 SNSの最前線に立ち、常に新しいサウンドを更新し続ける WurtSとなとりの二人だからこそ説得力を持つメッセージだ。
特に耳を奪われるのはBメロ。旋律の跳ね方に中毒性があり、一度聴いたら無意識に頭の中でリフレインする。 感情の熱と音の粗さがちょうど交差するポイントで、 曲の魅力が一気にピークへと向かっていく。
ただ勢いがあるだけじゃない。 “クラッシュ”という言葉に宿る破壊と創造の精神を、 音と声とメッセージで真正面から叩きつけるような一曲。
一歩前に進めないくらい 単純なことない
一歩ずつ進みたい まだ、単調に解けたい
『BEAT』は、2025年4月30日にDigital Singleとしてリリースされ、 日本テレビ系4月期ドラマ『恋は闇』の主題歌として大きな注目を集めた一曲。
WurtSという名前をZ世代に受けるアーティストから「誰もが知る存在」へ押し上げたターニングポイントと言っても決して大げさではないだろう。
ミュージックビデオには櫻坂46の藤吉夏鈴が出演し、 彼女の放つ静かな繊細さと感性の鋭さが曲の空気とぴったり重なり、一躍話題に。映像と音が互いの余白を埋めるように共鳴する、完成度の高い作品になっている。
音の中心にあるのは、ゆったりとしたテンポで響くピアノの旋律。切なく、少しクラシックの香りすら漂う旋律が、曲全体を上品な悲しみで包み込む。けれど曲の終盤の盛り上がりで顔を出す、ザラついたギターの質感がWurtSらしい。 ただ洗練されているだけではないバランスが、逆に感情のリアルさを際立たせている。
歌詞に描かれるのは、相手に 翻弄され、それでも愛し愛されたいと願う気持ち。 ドラマ『恋は闇』の登場人物たちの揺れ動く感情と重なり、 物語の余韻をそのまま音に落としたような説得力がある。静かに燃える恋の混乱。 綺麗と汚れのあいだを揺れる心。 『BEAT』は、その全部を抱えたまま前へ進もうとする、 WurtSの新しい可能性を象徴する一曲。
僕らは今夜、夢の中で Don’t Stop
音になって 音に乗って
『UPDATE』は、PEOPLE1のDeu(ドイ)とIto(イトウ)、そしてChilli Beans.のMoto(モト)という、いまのJ-POPオルタナ界を象徴する“声の個性”を一曲に凝縮した贅沢なコラボ曲。
表面上は軽やかで明るいサウンドなのに、耳を澄ませていくとその奥からほのかな気怠さがじわりと浮かび上がる。
フロアで夜が明け始める頃、ライトの色が少しずつ白んでいく瞬間の空気を閉じ込めたような楽曲だ。
特に印象的なのは、独特に刻まれるキックのリズム。少し崩したような配置がクセになり、曲全体に揺らぎを与えている。
さらに、サビに向かう直前で入るスネアのサウンドが心地よく、曲の高揚感をさりげなく押し上げている。跳ねているような明るい印象のビートと裏腹に、どこか儚さが漂う。
繰り返されるメロディラインと、少しねじれたリズムと旋律のベースラインが、曲全体に退廃的でどこか寂しげな影を落としている。
酔いがまだ抜けきらないまま、ぼんやりと踊り続ける…そんなまどろみの時間を思わせる一曲。
Deuの乾いた声、Itoの滑らかなフロウ、Motoの透明な歌声。三者三様の質感が交互に現れることで、曲に繊細さと不確かさが生まれ、それが“更新=UPDATE”というテーマとリンクしているのが面白い。
華やかさの裏にあるほの暗さ。 高揚と醒めが共存するあの感覚。 この曲は“明るいのにせつない”という、WurtSが得意とする二面性がもっとも鮮やかに出ている一曲だ。
今回紹介した5曲は、テーマもメッセージもまったく異なるにもかかわらず、どれも根底には“WurtSらしさ”がしっかりと息づいている。
音の選び方、声の重ね方、世界観の切り取り方…そのすべてが彼自身の美学として統一されているからこそ、このEPは多様でありながら一枚の物語として成立しているのだと思う。
2025年は、WurtSにとって確かに“飛躍”と呼べる一年だった。
楽曲リリースはもちろん、コラボやタイアップ、映像作品など、WurtSにとって活動領域がさらに広がった一年だった。
その動きは、単なる勢いではなく、明確な方向性を持った表現のアップデートとして映る。
2026年のWurtSはどのような展開が生まれるのか。
ジャンルの境界を軽々と超え、新しいポップスの形を更新し続ける彼なら、きっと予想を超える挑戦を見せてくれるはずだ。